ピースはメディスン
写真は今は亡きジェリー・ガルシア。この写真で重要なのはジェリーが「ピース・サイン」をだしているところだ。そう、今回はその「ピース・サイン」の話をしたいと思う。
よく「ピース・サイン」と「Vサイン」は同じじゃないかという人もいるし、なるほど見ただけではわからない。「戦いに勝利したときにだすのがVサイン」で、「平和をうったえるときに思わずピースするのがピース・サイン」という具合に、それを世界にむかって示す人間の心の在り方はだいぶ違っている。当然ながら、わたしが話題にするのは「ピース・サイン」の方である。
ピース、ピースの「ピース・サイン」として今では知らない人のいないそのサインの起源が、実はネイティブ・アメリカンの世界にあることを、わたしは信じている。それはインディアンの人たちが使っていた「インディアン・サイン・トーク」いわゆる「ネイティブ・アメリカン・ピープルの手話」のなかにある。たくさんの国や部族があり、けっこう広い範囲を自由に行き来していた共通の言葉をもたない人たちが、それにもかかわらずコミュニケートできたのは、彼らのあいだに長い経験から作りあげられ、部族を越えて使われてきた手話があったからで、しばしば「インディアンは手で話す」と表現されるように、同族でないものたちとは日常的な会話のほとんどが手話で交わされた。征服者であるアメリカ合衆国の陸軍の斥候たちが真っ先に勉強したのもこの手話で、西部開拓時代に使われた手話の教科書が今も残っていて、「Indian Sign Language」としてWEBで公開されていたりする。(WEBで公開されているものはウィリアム・トムキンスが平原インディアンから学んだもので、Indian Sign Language(1929)という同名の書物をそのまま収録している。同書の日本語訳も『インディアンは手で話す(径書房 /2000)』としてかつて出版された)物事をシンプルに理解して表現するのに彼らの残した手話は今でもとても役に立つし、実際わたしが彼らのものの見方などを学んだときもこれのお世話になった。
で、その「サイン・ランゲージ」のなかに上の図のようなものがある。みなさんがよく知っているピース・サインを右手で作り、それを高めの胸の位置からゆっくりぐるぐるとらせんを描くように額のところまでもちあげていく動作で、これは「メディスン」を意味する。「メディスンマン」「メディスンウーマン」の「メディスン」だ。あるいはその手の動きで「グッド・メディスンをつくる」という意味もあらわしていたリする。
「メディスン」というのは「薬」とも「医術」とも直接には関係ない。それは「神秘的なもの」「謎めかしいもの」「理解を越えているもの」「不思議」「目に見えない力」「魔術」といった意味をあらわすネイティブ・アメリカンに独得の用語のひとつである。
「なにか良いことが起きている」のを「グッド・メディスン」といい、反対に「なにかやばいことがはじまっている」というときには「バッド・メディスン」という。「メディスンマン」を「呪術師」と翻訳したり、「呪医」とか「祈祷師」と解釈したりする理由も、「メディスンを自在に扱う人間」だからだし、医者のくれる薬が効くのも「メディスン」のなせる業と、彼らは理解した。スペイン人が連れてきた馬をはじめて見たとき彼らはそれを「犬が魔法の力で大きくなったもの」として「メディスン・ドッグ」と呼んだ。それでは「メディスン・ボックス」はなんだと思う? これが「薬箱」ではなくて「テレビ」のことなんだな。
普通われわれは「平和」というと「戦争のない状態」と理解しているけれど、ネイティブ・ピープルにとっての平和は、もっと遥かに広い意味を持っている。平和を知らないユダヤの民がヘブライ語で「シャローム」と表現するものとそれはよく似ていると言っていいかもしれない。真の平和というのは、内側の、内的な平和だけで到達できるようなものではおよそなくて、自分が置かれている自然という環境との間にも、平和な関係が樹立されていなくてはならないものなのである。内側と外側の平和があって初めて人は平和であるといえるのだろう。
もういちどこのサイン・ランゲージが指し示している「グッド・メディスン」という言葉の意味の深いところを探求してみよう。それは単に「なにか良いことが起きている」だけではない。もちろんその意味もあるのだが、地球のうえにあるものみなすべてが調和のうちにあり、しかも「偉大な力」との関係もうまくいっていることを教えている。だから「グッド・メディスンを作る」という意味を持たされた「ピース・サイン」の原形が伝えていることは「平和を広げるために世界に調和とバランスをとりもどすこと」をメッセージしているのである。ピース、ピース。
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