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Thursday, July 08, 2004

80体のカチーナ人形たちに会いに行きたい

アンテスとカチーナ人形展

暑いですね。北アリゾナのホピの国ではいまちょうどニーマンという夏至の日から16日間つづく例大祭がおこなわれています。今日か明日には終るはずです。冬至の日に聖なる山から降りてきた神々(カチーナ)が、半年間ひとびととともに暮らして生きものにいのちと育つ力を与えてくださった後、再び家に帰られるための儀式です。儀式は神々の帰還を寿[ことほ]ぐ踊りが主で、ヘミスというカチーナが主役となって踊ります。

おりしもこの7月23日(金曜日)から8月29日(日曜日)まで、香川県高松市の高松市美術館で「アンテスとカチーナ人形----現代ドイツの巨匠とホピ族の精霊たち」展が開催されます。日本でこれほど多くのカチーナ人形が一度に見れる機会はおそらくこれがはじめてかもしれません。

カチーナ人形というのは、もともとホピの人たちが自分たちの信じている精霊たちの世界を子供たちに教えるために作った人形のことです。ホピの国は1911年以来、部外者による儀式の撮影や録音やスケッチなどを一切正式に禁止していますから、実際にそのときと場所にその場にいる人間しかカチーナがなにかを体験することはできません。(わたしたちが目にするホピの写真の多くは1904 - 1906の2年間のに撮影されたものがほとんどです)

極端に雨の少ない沙漠で生きているホピの人たちの儀式の大半が雨と関連していて、カチーナも例外ではありません。冬至の日に聖なる山からおりてきてくれるカチーナ、村とそこに暮らす人々に生きる力を与えてくれるスピリットたちは、およそ350種類もあるとされています。彼らはそのまま半年間村々にとどまり、夏至の日にまた山に戻っていくのです。

生活と宗教が一体化しているホピの人たちの子共にたいするしつけの基本のなかの基本は、カチーナがどういうものなのかを徹底して教えこむことでした。カチーナ人形はおもちゃとして与えられるのではなく、あくまでもカチーナの存在を忘れないためのものです。成人したホピの男たちは厳密な儀式のカレンダーにしたがって、正しい時と場所にあわせてカチーナの仮面を被り衣装をまとって踊ります。村のなかを練り歩いたりもします。それはちょうど日本列島の東北部に伝統的に残るナマハゲとも通じるものがあるように思います(ナマハゲからは宗教的なものが抜け落ちてはいますが)。子供たちを脅かし、しつけるための教育的な役割もあるわけです。子供たちにとってそれは紛れもなくほんもののカチーナに見えているのです。神々が自分のすぐ側にいるのだと。そして8歳から13歳ぐらいのあいだのどこかで、子供たちにはそれが実際には仮面をかぶった一族の大人たちであることがあかされる日がきます。その日から、子供たちは大人になるための通過儀礼をはじめることになり、やがて大人の世界に入り、今度は自分が仮面のうしろがわにいる人となるのです。

カチーナ人形は、ホピの人たちの宗教観や世界観を知るうえで重要な情報をたくさん与えてくれます。現在もカチーナの人形を作るアーティストはたくさんおり、アリゾナを旅する人はいろいろなところで極彩色のカチーナ人形に出迎えられることでしょう。色彩や形態がユニークなために、心を奪われた芸術家は数知れず、今では世界中にコレクターがいて、ネットオークションなどで高額に取り引きされたりもしています。今回展示されるカチーナは1936年生まれのドイツの画家----現代ドイツの巨匠----ホルスト・アンテスのコレクションのごく一部で、ほとんどが20世紀初頭にホピの国から流出した貴重なものです。ホピの人たちの精神世界がどのようなものであったのかを知るために、子どもの目を持って見に出かけたいものですね。

この「アンテスとカチーナ人形展」は、高松市美術館(7月23日〜8月29日)のあと伊丹市立美術館(10月30日〜12月12日)、岩手県立美術館(2005年4月9日〜5月22日)、いわき市立美術館(2005年5月28日〜7月3日)、神奈川県立近代美術館・葉山館(2005年7月9日〜8月28日)で開催されることがきまっているそうです。

Text updated Friday, July 09, 2004

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Comments

初めまして。「カチーナ」で検索してこちらへ参りました。
『アンテスとカチーナ人形』、見て参りました。とても不思議で、でも身近で、かわいらしい(といってもいわゆる「かわいい」とは違う、愛嬌というか...)カチーナ人形、堪能して来ました。
トラックバック、張らせて頂きました。これからも遊びに来ますね。よろしくお願いします。

Posted by: ハシモトユウコ | Saturday, July 30, 2005 06:07 PM

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