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Tuesday, June 08, 2004

『輝く星』という小説のこと

小生の新しいほん訳ですが、今週の配本には間に合わなくて、来週の火曜日(15日)に書店に並びます。本は、19世紀末、まだアメリカの領土ではなく、スペイン帝国の領土だった現在のニューメキシコ、アリゾナ地域を舞台にした小説で『輝く星』といいます。           Text updated 06/09, 13:29 pm, 2004

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輝く星-----ホピ・インディアンの少年の物語
 著者 ジョアン・プライス
 ほん訳者 北山耕平
 装幀 白谷敏夫(ノマド)
 カバー写真 佐藤正治
 刊行 地湧社 ISBN4-88503-178-8
 定価 本体1600円+税

ひとりのホピの少年がスペインの軍隊によって拉致されて奴隷として売り飛ばされて、彼を奴隷として買ったマウンテンマン(毛皮採集を目的として山に単独ではいる人)と人里離れた厳寒の山奥でビーバー猟をしながら一冬を過ごすあいだの出来事を、厳しくも美しい自然を背景にハートウォーミングな小説として描いたもので、後味のさわやかな「スピリット」のある冒険物語です。西部劇によくあるような人殺しのシーンは一度も出てきません。実際に起った事件を下敷きにして小説化したものですが、無骨な山男と彼の息子ほどの年が離れたホピインディアンの少年との異なる世界に生まれて育ったふたりの奇妙な友情について書かれています。著者のジョーン・プライスは、アリゾナで生まれて育った女性で、現在はスコッツデールという町で暮らし、そこにあるメサ・コミュニティ・カレッジの名誉教授として哲学と宗教学を教えていて、長年ホピの人たちからの信頼も暑く、白人女性としては最初にキバでおこなわれる神聖な儀式に招待された人物でもあります。宗教学の教授としてフォー・コーナーズ地区(アリゾナ、ニューメキシコ、ユタ、コロラドの四つの州が接するエリア)の聖地としての役割についてネイテイブ・ピープルの世界観に基づいて考察し、20年ほど前に公開された論考「The Earth is Alive and Running Out Of Breath」は、「母なる地球の現状を知るために重要な論文」として、現在もなお全文が、とあるWEBで公開(英文)されていて、多くの人たちに影響を与えつづけています。この論文は「地球は生きている、そして息も絶え絶えになっている」というタイトルで日本語にもなっていて、雲母(きらら)書房から刊行された『原子力の時代は終った』(人間家族編集室編、1999年)という本に所収されています。

私が今回訳した本『輝く星」は、アメリカ・インディアンの奴隷問題を扱った小説としてはおそらくはじめてのものかもしれません。普通南北アメリカ大陸における奴隷の問題というと、アフリカン・アメリカンの人たちの問題と考えられていますが、ネイティブ・アメリカン・ピープルもまたブラック・ピープルと同様に奴隷として売り買いされた事実はあまり知られていないようです。1492年に亀の島のはずれの小さな島に到達したコロンブスとその息子は、その島で暮らしていたタイノ・インディアンたちを奴隷にして金山で働かせていました。アメリカ・インディアンのなかには奴隷になることよりも死を選んだ人たちも多くいたようです。

しかし「奴隷」という考え方そのものは、亀の島の人たちにとってさほど目新しいものではなかったと思われます。はるか昔から社会生活を営む人間は、コロンブス以前の北米大陸のみならず、おそらくは縄文時代の日本列島においても、さまざまなかたちで「奴隷」を使ってきているからです。(日本という国が差別を巧妙につかって人を支配するようになる下敷きにあったものが縄文時代からあるそうした先住民のソフトな奴隷システムではないかと小生は考えていますが、これについてはまた別のところでいつか)アメリカ合衆国の植民地拡大時代のなかにおけるハードな奴隷制が、太古からの先住民文化における「奴隷」と決定的に違っていたのは、前の世界では「奴隷」とされていた人たちが「人間」として認識されていて、人間としてのある程度の権利が与えられていたのに比べて、今の世界でヨーロッパ人が考え出した奴隷は、移動の自由も結婚の自由も奪われ、さながら不動産のごとく売買されたことからもわかるように、根の深い人種偏見を基盤にして「人間」とみなされなかったところです。日本列島を含む、北西太平洋沿岸のネイティブの人たちの前の世界の国々における奴隷システムでは、奴隷も自由に結婚ができたし、奴隷の子どもはもはや奴隷ではなかったようで、つまり「生まれついての奴隷」は存在しなかったといっていいでしょう。ところがアメリカ合衆国における植民地拡大のなか、人種偏見に基盤を置く新世界の奴隷制度では「生まれついての奴隷」が存在していました。

今回わたしがほん訳した『輝く星』という小説では、金儲けをたくらんだスペインの軍隊の一部が、スペイン軍と敵対していたナパホの女性や子供たちを拉致するのがめんどうなので、近くで暮らしていた平和を愛するホピの人たちの村を襲撃してそこの子供たちを拉致し、奴隷として売りとばすシーンからはじまっています。このときサンタフェの町まで連れていかれて、英語を母国語とするビーバー猟師に奴隷として買われた11歳のホピの少年が、無骨な山男と山奥で冬を過ごしながら共になにを学び、ホピ一族の精神の力に守られながら、またた運命として出会うことになったプエブロのメディスンマンの老人の力を借りて、精神性の高い非暴力の生き方を貫いて成長する物語です。

この本を私がほん訳しようと思ったのは今から20年ほどまえ、当時アメリカに暮らしていた私が日本に帰国するさい、大量に整理した本のなかで、どうしても捨ててこれなかったただ一冊の小説が、この本だったからです。もともとノンフィクションの本ばかり読んでいて、小説を読むことはまずなかったのですが、わたしはこの本の底を流れているある種の精神を極めていとおしいものとして感じていました。星のように散りばめられているメディスンマンや、ホピの父親の心に残る台詞と、生きるための舞台として私もまた心を奪われていたアメリカの美しい沙漠の風景の描写・・・そうしたものがずーっと心のなかに残っていて、いつかそんな時がきて自分の息子が大きくなったら読ませたいものだと考えていました。

そしてその時がきたわけです。

わたしはこの本を息子と、息子とおなじように次の時代を生きる世代のためにほん訳しました。地球規模で暴力が日常化し、戦争が日常化しているなかで、非暴力という「並ならぬ精神の力を必要とする生き方」を貫き通すホピの人たちの教えが、さまざまな形で広まることを願いながら。この小説が、そのための種となり、多くの人たちの心に花を咲かせることを願っています。

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