コウモリはなぜコウモリになったのか?(物語)
アニシナベ族につたわるお話
再話 北山耕平
(1.)
むかし、むかしの、そのまた むかし
ちきゅうが うまれて まだ
まもないころの おはなしです。
あるあさ まだくらいうちに
いつものように おひさまが
ゆっくりと のぼり はじめました。
ところが そのひは いつもとは
ちがって いたのです。
(2.)
おひさまが
あんまり じめんに
ちかづき すぎたので
いっぽんの たかい
たかい きのえだの さきに
なんと ひっかかって しまいました。
たいへんです!
どうにかして
にげようと しましたが
もがけば もがくほど
よけいに みうごきが
とれなく なって いきます。
そういう わけで
そのひは よるが
あけ ませんでした。
ちきゅうは くらい まま です。
(3.)
とりたちも
どうぶつたちも
はじめは そのことに
まったく きがつきません。
「なんだ まだ あさじゃ ないのか」
めをさましたものの
まだくらかったので
これさいわいと もういちど
ねむってしまった ものたちも いました。
「いやいや うれしいなあ!」
「こんなに ありがたいことはない」
ひょうや ふくろう などのように
ひるよりも よるが だいすきな
どうぶつたちや とりたちは
みんな おおよろこび。
「しめしめ いつまでも
あさがこなければ えものが
ぞんぶんに おいかけられるわい!」
(4.)
でも しばらくすると さしもの
とりたちも どうぶつたちも みんな
なにかが おかしいことに きがつきました。
「どうしたのかしら?」
「なにがおきたのだろう?」
「おかしいぞ! おかしいぞ!」
まっくらやみの なか みんなが
いっかしょに あつまり
かいぎが ひらかれる ことに なりました。
「おひさまは まいごになったに ちがいない」
ワシが いうと、クマが こたえました。
「では みんなで さがしに いかなくては」
(5.)
そこで とりたちも どうぶつたちも
みんな てわけして おひさまを
さがしに でかけました。
どうくつの なか、
ふかい もりの おく、
いくつもの やまの うえ、
どこまでも つづく ぬまち。
しかし どこにも おひさまは いません。
だれ ひとりとして おひさまを
みつけることが できませんでした。
(6.)
そのときのことです。
いっぴきの ちいさな ちゃいろの リスが
こんなことを かんがえました。
「そうだ! もしかしたら おひさまは
たかい きの えだに ひっかかって
いるの かも しれませんよ!」
ちいさな ちゃいろの リスは
どんどん ひがしに むかいながら
き という きを
かたっぱしから いっぽんずつ
しらべて まわり ました。
そして ついに
あの たかい たかい きの うえで
えだの なかに ひっかかっている
おおきな ひかり かがやく ひのたまを
みつけたのです。
(7.)
さっそく きに のぼって
たしかめて みると
その おおきな ひのたまは
やはり おひさま でした。
おひさまの ひかりは
あおじろくて
たいそう よわっている ようすです。
すると おひさまが
よわよわしい こえで
いいました。
「たすけて くれないか、
そこの ちいさな きょうだいよ」
(8.)
おひさまを つかまえている
たくさんの きのえだを
いっぽん いっぽん
はで かみきり ながら
リスは すこしづつ
おひさまに ちかづいて いきます。
でも おひさまに
ちかづけば ちかづくほど
あつさも まして いきました。
「ううう、あつい! でも まけるものか
ぼくが おひさまを たすけるんだ!」
(9.)
リスが そうやって
たくさんの えだを
かみきれば かみきるほど
おひさまは すこしずつ じゆうになり、
げんきを とりもどして
その かがやきを まし はじめます。
「もう、だめ」
ちいさな ちゃいろの リスが いいました。
「あつすぎて これいじょうは いけない。
ぼくの けがわが もえてしまう。
もう、ほとんど まっくろに なっちゃった」
「たすけて おくれ」
おひさまが また いいました。
「たのむから そこで やめないでくれ、
ちいさな きょうだいよ」
そうまで いわれたら あとには ひけません。
ちいさな リスは がまんをして
えだを かみきり つづけました。
そうこう するうちにも
おひさまは
さらに さらに あつくなり
かがやきも
さらに さらに ましていきます。
いや その あついの なんのって!
いや その まぶしいの なんのって!
(10.)
「やや、なんてことだ、ぼくの しっぽが、
しっぽが やけおちて しまったぞ!」
ちいさな リスが いいました。
「もう だめだ!
ほんとうに もうだめ!
もう これいじょうは
すすめません」
すると おひさまが いいました。
「たすけて おくれ
ちいさな きょうだいよ。
あと もうすこし、もうすこしで
わたしも じゆうに なれそうだ」
(11.)
そこで ちいさな リスは
がまんに がまんを かさねて
さらに えだを かみ つづけます。
すでに おひさまは あかあかと
ひかり かがやいており、
リスが そうやって
いっしょうけんめい
かみすすむ につれ
その かがやきを
ひどく まして いました。
「まぶしい。まぶしすぎる。
このままでは めが
みえなく なっちゃう!」
リスは おもわず さけびました。
「もう、やめても いいですか!?」
おひさまが こたえます。
「あと、すこし。もうすこしだ!」
(12.)
そうやって リスが さいごの えだを
なんとか かみきった とたんでした。
じゆうに なった おひさまは
そのまま はじき だされた ように
そらに かけ のぼって いきました。
あれよ、あれよ。
いきなり せかいに
よあけが おとずれ ました。
そうやって ちきゅうの
あたらしい いちにちが
また はじまったのです。
せかいじゅうの
とりや どうぶつたちも
あたらしい あさが きたので
また みんな しあわせになりました。
(13.)
でも、あの ちいさな リスだけは
すこしも しあわせでは ありません。
おひさまの
きょうれつな ひかりに
りょうほうの めを やられて
めが まったく
みえなく なっていたのです。
ながくて ふさふさしていた しっぽも
ねつで やけおちて しまい ました。
かろうじて やけることを まぬがれた
けがわも いたるところが まっくろです。
ひふなんか ねつで
だらりと のびきっていました。
リスは ぜんしん ぼろぼろに なったまま
さきほどまで おひさまが ひっかかっていた
あの きの たかい えだの ところで
じっと うずくまったまま
うごきが とれないで いました。
(14.)
そらの たかい ところから
したを みおろした
おひさまの めが
ちいさな りすの
あわれな すがたを とらえました。
じぶんを たすけるために
いのちすら なげだそう とした
ちいさな リスに
おひさまは ありがたい きもちで
いっぱいでした。
「ちいさな きょうだいよ」
おひさまが リスに こえを かけました。
「よく たすけて くれた。
おれいを あげよう。
なんでも ほしいものを
いってごらん?」
(15.)
「ぼくは むかしから
そらを じゆうに
とびまわり たかったんです」
ちいさな リスは そこまで いうと
かなしそうな かおを むけて
「でも、もう めも まるで みえないし
しっぽも やけて なくなっちゃったから」
おひさまは リスの
その ことばを きくと
にっこりと ほほえんで
いわれました。
「ちいさな きょうだいよ。
もう しんぱい するな。
たった いまから おまえさんを
どんな とりたちよりも うまく
そらを とべるように してあげよう。
それに あれほど わたしの
すぐ ちかくに まで
ちかづいた おまえさん には
もはや わたしの かがやきは
あまりにも まぶしかろう。
そのかわり といっては なんだが
くらやみの なかで みえる めを
おまえさんに さずけてあげよう。
きょうから おまえさんは そらを
じゆうに とびまわりながら まわりの
おと という おとを ぜんぶ
ききわけることが できるだろう。きょう、
たった いま このしゅんかん から
わたしが そらに のぼったときに ねむりにつき
わたしが せかいに さようならを つげるときに
おまえさんは めを さます ことに なる」
おしまい
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