少年と大きなおじいさんの岩(物語)
シャイアン一族につたわるお話
再話 北山耕平
むかし むかし、あるところを、ひとりの おなかをすかせた
かりうどの しょうねんが、えものを さがしながら、たびを
つづけて いました。
さいごに しょくじを してから、もう なんにちも、なにひ
とつたべて いません。
とにかく おなかが ぺこぺこです。
しばらく あるくと、ちいさなやまが ありました。
この やまに のぼれば、どこにえものが いるか、みわたす
ことができるかも しれません。
「ようし のぼろう。」
やっと やまの いただきにたどりつきましたが、えものなん
かどこにも みえません。ちょうじょうには おおきないわが、
ひとつだけ ありました。
インディアンの ひとたちは、おおきな いわの ことを よ
く「おおきな おじいさん」とよんで、やまの かみさまとし
てつきあって きました。
しょうねんは、その おおきないわに むかって はなしかけ
ます。
「おおきな おじいさん。おじいさんは ながくいきていて、
たいへんなちからを もって います。だから、どうか その
ちからを、ぼくに かしてください。」
それから しょうねんは たいせつにして いた、こくようせ
きでつくった うつくしいナイフを、その おおきないわの
まえの じめんに、うやうやしく おきました。
「おおきな おじいさん。この いしのナイフは、あなたへの
おくりものです。どうか、たべる ものを みつけるだけの
ちからを、ぼくに ください。」
しょうねんが、やまから おりながら したの たにを うか
がうと、とおくに なにかが みえます。
ちかづきながら みると、それは バッファローでした。しか
も たおれて しんだばかりのバッファローのようです。
「やったぞ!」
と しょうねんはかんせいを あげました。
「おおきな おじいさんの、あのおおいわからの おくりもの
にちがいない。」
しょうねんは、バッファローの たおれている ところを め
ざして、いさんで やまをかけおりました。
「あんなに おおきな バッファローなら、1しゅうかんぐら
いは たっぷりたべられるな。にくを きりわければ、うちに
もちかえる ことだって できる。」
でも しょうねんは、さっき、やまの うえで、あの おおき
なおじいさんの いわに、ナイフをあげてしまっていたでは
ありませんか。しょうねんは かんがえました。
「そうだ、あの ナイフは、あげた ものではなくて、あそこ
に わすれて きたということに しよう。それが いい。わ
すれて きた ふりを するんだ。」
しょうねんは わざと おおきなこえを あげました。
「あれー、ぼくの ナイフが ないぞ!いったい どう した
んだっけな。そうだ! やまの うえに わすれてきたんだ。
さっそく とりに いこう。」
しょうねんは もういちど やまをかけのぼりました。いしの
ナイフは、おおきな おじいさんの いわのまえに、きちんと
おかれています。しょうねんは、その おおきな いわに は
なしかけるように いいました。
「いしの ナイフなんか もらってもうれしく ないよね。ど
うせ ただのいしなんだから。」
しょうねんは ナイフを ひろいあげると、あの バッファロ
ーが たおれていた ところをめざして、やまを かけおりま
した。
ところが その ばしょについて みると、そこには からか
らにひからびた、バッファローの ほねがのこされて いるだ
けではありませんか。
しょうねんは あわてて また やまをかけのぼりました。
「おおきな おじいさん。」
と、しょうねんは おおきないわに はなしかけます。
「ごめんなさい。あれは ただのじょうだんだったのです。こ
の ナイフは、ほんとうに あげます。だから、あの バッ
ファローを、ぼくにかえして ください。」
しょうねんは、おおきな いわの すぐわきに、いしの ナイ
フを おいて、
「さあ どうぞ、どうぞ。これで あのバッファローも ぼく
の ものですよね。」
ところが しょうねんが、たにに おりてみると、そこには
あの からからにかわいた バッファローの ほねすらも も
う どこにも みあたりません。
しょうねんは もういちど やまにのぼりました。
おおきな いわはあいかわらず そこに ありましたが、ナイ
フは どこかに きえていました。
しょうねんは たべる ものも なく、いぜんにも まして、
おなかを すかせたまま、さらに たびを つづけなくてはな
りませんでした。
【シャイアン族】北部大平原をテリトリーとする人たちにたいする呼び名。シャイアンは隣に住むラコタ一族の「シャリナ」つまり「奇妙な言葉をしゃべる人びと」からつけられました。
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