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Wednesday, March 31, 2004

ブギー・ウーマン(物語)

きたないのがすきなこどもたちを持つ両親のためのお話
部族名不明

再話 北山耕平

 ブギー・マンは、アメリカ・インディアンのこどもなら、しらな
 いものがいないくらいゆうめいなかいぶつです。ブギー・マンは
 おとこですが、これがおんなのかいぶつになるとブギー・ウーマ
 ンとよばれます。
 
 ブギー・ウーマンは、せなかにおおきなバスケットをせおってい
 るので、「バスケットのおにばば」ともよばれ、こどもたちから
 はたいへんにこわがられています。

 このブギー・ウーマンは、とてつもなくおおきくて、スノー・マ
 ン(ゆきおとこ)や、スノー・ウーマン(ゆきおんな)などとよ
 くくらべられますが、ブギー・ウーマンが、そこいらへんによく
 いるかいぶつたちとちがうのは、これがおふろなどというものに
 いちどもはいったことがなくて、だからほんとうにくさくてくさ
 くて、ぜんしんからひどいにおいがするだけでなく、からだのま
 わりをなんセンチものあかがとりかこんでいるところでしょうか。
 
 つまさきなんか、あかというかどろというかが、あつくこびりつ
 いているために、あしのゆびがぜんぶひらきっぱなしになってま
 す。
 
 はなのあなにはねばねばのくろいはなくそがいちめんにあつくこ
 びりついていて、はなのあなからくうきがはいらないために、い
 つもくちをあけてこきゅうをしています。
 
 しかも、ブギー・ウーマンは、おかあさんやおとうさん、おばあ
 ちゃんやおじいちゃんのいうことをきかないこどもをたべるのが、
 とにかくだいすきときているのです。
 
 あなたは、おとうさんやおかあさんのはなしをよくきくこどもで
 すか?
 
 むかしむかし、あるところに12にんのこどもたちがいて、おば
 あちゃんおじいちゃんといっしょにくらしていました。
 
 こどもたちはおかあさんのことばにも、おとうさんのはなしにも、
 おばあちゃんやおじいちゃんのいうことにも、まったくみみをか
 しません。
 
 12にんのこどもたちのなかにひとりだけ、せむしのおんなのこ
 がいて、おばあちゃんやおじいちゃんのはなしをよくきくのは、
 このこだけでした。
 
 こどもたちがそとであそんでいると、おばあちゃんがみんなをい
 えのなかによびあつめました。
 
 「みんなよくおきき、はなしがあるから、みんなあつまってちょ
 うだいな」
 
 バタバタバタっとこどもたちがいえにかけこんできました。おば
 あちゃんはこどもたちのかおをみまわしていいました。
 
 「おまえたちはとってもくさいよ。へんなにおいがする。みんな
 おふろにはいって、よくからだをあらいなさい」
 
 するとこどもたちは
 
 「いやーーーーーだよ!」
 
 といってみんなにげだそうとします。そこでこんどはおじいちゃ
 んのでばんです。
 
 「みんなよくおきき。なんでこどもたちはおふろにはいってから
 だをよくあらわなくてはならないか、これからはなしてやろう。
 りゆうは、ブギー・ウーマンがくるからだ。ブギー・ウーマンと
 いうのは、くさくて、よごれているこどもたちが、だいこうぶつ
 なんだ。かぜのふくほうがくによって、おまえたちのくさいにお
 いがあのおおきなやまのうえにはこばれていくことがある。いい
 か、あそこにはブギー・ウーマンがすんでいるんだぞ。そこでい
 つもくさいこどもたちのにおいをかいでいる。くさいにおいがし
 たら、そのにおいをつたってブギー・ウーマンはやまからおりて
 くるんだ」
 
 「へへーん、そんなふるくさいはなし、おいらたちはしんじない
 もんねー」
 
 こどもたちはじいさまのはなしにはなもひっかけません。ただひ
 とり、あのせむしのおんなのこだけが、おじいさんのはなしをし
 んけんにきいていました。こどもたちはまたおもてでどろまみれ
 になってあそびはじめます。
 
 しょうがなくおばあちゃんがまた、こどもたちをよびあつめ、み
 んなをしげしげとながめながらいいました。
 
 「おまえたちはみみのあなだっていちどもきれいにそうじをした
 ことがないじゃないか。みみあかがぎっちりつまってる。そんな
 ことでは、はなしもよくきこえまい。いちどきれいにそうじした
 らどうかね」
 
 でもこどもたちはそんなはなしにはみみもかしません。じっさい
 もうなんねんも、みみあかをそうじしたことなどなくて、みみの
 あなをのぞいてもかんぜんにふさがっているようにすらみえます。
 それでもこどもたちは
 
 「いやーだよ!」
 
 とべろをだしてへいきなかお。おじいさんがあきれたようにいい
 ました。
 
 「いいかこどもたちよ、よくききなさい。なんで、みみあかをき
 れいにそうじして、おとうさんやおかあさん、おばあちゃんやお
 じいちゃんのはなしをよくきかなくてはならないかというと、ブ
 ギー・ウーマンがはなしをきかないこどもたちをだいこうぶつに
 しとるからなんだ。ブギー・ウーマンはとってもおおきなくちを
 していてな、くさいみみもとにそのくちをおしつけて、みみくそ
 も、のうみそも、そこからぜんぶすいだしてたべてしまうのだ。
 そんなことをされたら、それこそもうおまえたちはだれのはなし
 もきくことができなくなってしまうのだぞ」
 
 するとまたこどもたちがいっせいにいいました。
 
 「そんなふるくさいはなしはだれもしんじないよ、べーだ」
 
 このときもいっしょうけんめいはなしをきいていたのはあのせむ
 しのおんなのこだけでした。こどもたちはなにもきかなかったか
 のように、またそとでわいわいあそびまわっています。
 
 よほどはらにすえかねたのか、おばあさんがまたしてもおこった
 ようにこどもたちをいえのなかによびあつめました。
 
 「ああいやだいやだ、なんでそんなによごれてるの。みなさい、
 あんたたちのそのかおったら、なによ。たまにははなぐらいかん
 だらどうなの。あれあれ、はなくそがだらだらっとずーつとあご
 のしたまでたれさがっているじゃないの。まったく、みれたもの
 じゃないわ」
 
 こどもたちはいままでにいちどもはなをかんだことがありません。
 なかにははながたれて、それがそのままかたまって、にほんのぼ
 うのようになって、ぶらぶらとぶらさがっているこまでいます。
 それでもこどもたちはまだいうのです。
 
 「べろべろべーっ。いやなこったい!」
 
 またしてもおじいちゃんが、なぜはなをきれいにかんでおかなく
 てはならないのか、はなからにほんのはなくそのかたまりのぼう
 をぶらさげていては、どうしていけないのかを、せつめいします。
 
 「いいか、ブギー・ウーマンははなたれこぞうにめがなく、しか
 もおかあさんやおとうさん、おばあちゃんやおじいちゃんのいう
 ことをきかないこどもたちがだいこうぶつなんだぞ。はなくそだ
 って、あじしおのかわりにして、みんなたべちまうんだ」
 
 こんどもまたこどもたちはみみをかしません。
 
 「そんなふるくさいはなしをだれがしんじるものか」
 
 といってそとでまたあそびはじめました。はなしをしんけんにき
 いていたのは、やはりあのせむしのおんなのこだけでした。
 
 そのひ、こどもたちがおもてであそんでいるとき、つよいかぜが
 ビューッとふいてきました。こどもたちのくさいにおいはかぜに
 のって、たかいやまのうえにはこばれていきます。
 
 たかいやまのうえにはブギー・ウーマンがすんでいました。
 
 クンクンクンクン。ブギー・ウーマンはそのにおいにはなをふく
 らませてこうふんしました。どんなにはなれていても、どんなに
 かすかでも、ブギー・ウーマンはくさいにおいをぜったいにのが
 しはしません。そのにおいのもとをさがそうと、かのじょはやま
 をおりはじめました。
 
 ブギー・ウーマンは、はながつまっていたので、やまをおりなが
 らくちでぜいぜいいきをしています。いつでもそうやってくちで
 こきゅうをするのです。
 
 やまをおりるにつれてくさいにおいがつよくなっていきました。
 ブギー・ウーマンは、おおきなバスケットをせなかにせおったま
 ま、しまいには−−おにのように−−かけはじめました。
 
 そしてれいのこどもたちのあそんでいるちかくまでやってきたの
 です。
 
 ブギー・ウーマンは、はやしのきぎのあいだにみをかくしていま
 した。そしてころあいをみはからって、そこらにあったいちごを
 てに、はやしからぬっとすがたをあらわすと、こどもたちにこえ
 をかけました。
 
 「いちごをたべたくはないかえ?」
 
 こどもたちはブギー・ウーマンのちかくにかけよりました。そし
 てむしゃむしゃいちごをたべはじめます。あまいあまい、いちご
 でした。しかしブギー・ウーマンはもうかたほうのてに、こども
 たちをつかまえるためのべたべたしたとりもちのようなものをか
 くしもっていたのです。
 
 ブギー・ウーマンはいきなりそのべたべたしたものをこどもたち
 のかおにぬりつけました。もうなにもみえません。それからブギ
 ー・ウーマンは、ゆっくりとひとりずつこどもたちのうでをつか
 まえては、せなかにしょつたおおきなバスケットのなかになげい
 れていきました。こどもたちは「たすけてー」というだけでした。
 
 こどもたちをのこらずバスケットのなかにいれてしまうと、ブギ
 ー・ウーマンはしょくじのまえのうたをうたいながら、うれしそ
 うにやまにかえっていきました。
 
 「さあ、おいしいこどもたちをたべましょう、たべましょう、た
 べましょう。おいしいこどもたちを、たべましょうねえー」
 
 ブギー・ウーマンがそうやってじょくじのうたをうたっているあ
 いだ、れいのあたまのよいせむしのおんなのこだけが、バスケッ
 トのなかでかおについているねばねばのものを、なんとかしてと
 ろうとしていました。
 
 そしてどうにかそのとりもちのようなものをとりのけると、バス
 ケットのへりをよじのぼって、そっとそとにでると、やまをかけ
 おりてまっすぐいちもくさんにむらにかえり、おとなたちになに
 がおきたのかをつたえました。
 
 「ブギー・ウーマンがあらわれたの。こどもたちはみんなつかま
 ってしまったわ。みんなたべられちゃうの!」
 
 やがておおきなからだをしたせんしたちが、あのせむしのしょう
 じょにつれられて、やまにのぼっていきます。やまのうえにつく
 と、みんなははやしのなかにかくれてようすをうかがいました。
 
 おおきなたきびがたかれていました。ブギー・ウーマンが、あの
 じょくじのうたをうたいながら、そのひのまわりをおどりまわっ
 ています。
 
 「さあ、おいしいこどもたちをたべましょう、たべましょう、た
 べましょう。おいしいこどもたちを、たべましょうねえー」
 
 そうやってブギー・ウーマンがしょくじのよういをしているのを
 みているうちに、さしものせんしたちもおそろしくなってきまし
 た。
 
 「やばいな。こんなにこわそうなんだもの。どうしていいかわか
 らない」
 
 「もうどうしようもないから、このままかえろうよ」
 
 あのせむしのおんなのこは、おこりました。おおがらなせんした
 ちをにらみつけて、
 
 「あんたたち、どうしちゃったのよ? それでもほんとうにせん
 しなの? いいわ、もう、たのまない!」
 
 しょうじょはそういうと、ぜんしんのちからをふりしぼって、そ
 のままいっきにブギー・ウーマンのせなかにたいあたりをくらわ
 せました。ブギー・ウーマンはちからにおされてもえさかるひの
 なかにたおれこみました。
 
 そのしゅんかん、ブギー・ウーマンのからだはまるでポップコー
 ンのようにばらばらにはじけとび、ブギー・ウーマンのちは、ま
 るではなびのようにあたりにとびちりました。
 
 このときのブギー・ウーマンのとびちったちから、ブーンととん
 できてチクリとさすあの「か」がうまれたといわれています。
 
 そうやってひとりのせむしのおんなのこが、ほかのこどもたちの
 いのちを、たべられるすんぜんにすくいだしました。
 
 こどもたちは、みんなでやまをおりて、むらにかえると、いごは
 おふろにもはいるようになったし、おばあちゃんやおじいちゃん、
 おかあさん、おとうさんのいうことを、よくきくようになりまし
 たとさ。
 
 めでたし、めでたし。

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